2020年3月11日(水)

■震災9年 復興総仕上げも課題山積 災害公営住宅では問われる共益

東日本大震災の発生から、きょう11日で9年を迎えた。復興・創生期間は来年度末で終了するが、いわき市はまさに、復興の総仕上げの時期となっている。津波で甚大な被害を受けた沿岸部は、目に見える形で復興が進んでいる一方、地域コミュニティーの再生はいまだ途上。東電福島第一原発事故の影響も色濃く、風評払しょくや廃炉・汚染水対策、避難住民との共生と、取り組む課題は多岐にわたっている。

平豊間の市災害公営住宅「豊間団地」の一角では、早咲きの桜・タイリョウザクラが見ごろを迎えている。タイリョウザクラは、花の色が鯛(たい)に似た桃色をしており、縁起の良い桜として知られている。潮風に強い点も特徴で、海に近い豊間団地に適している。

複数のタイリョウザクラが豊間団地に植樹されたが、県道小名浜・四倉線沿いに面した木が、特に育ちが良いという。11日は朝から天候に恵まれ、たくさんの花びらが輝いていた。

192戸の豊間団地は震災の津波によって、自宅を失った地域住民のために建設されたが、震災復興土地区画整理事業による宅地引き渡しに伴い、家を建てた人が退去する一方、現在は市営住宅として一般の市民も入居するようになった。20軒ほど空きがある。

<団地盛り立てる遠藤さん>

豊間団地管理会・会長の遠藤重政さん(82)に課題を問うと、「共益のあり方が重要となってくる」と語る。上下水道が一体となっている中心市街地と異なり、下水は合併浄化槽で運用されており、この費用を徴収するのは遠藤さんら役員の仕事だ。年間で余ればもちろん返金する。

「新しい住民の方に、理解してもらう必要がある」と遠藤さん。仮に共益費を支払わない心無い人がいても、下水道が止められることはない。また市内の別の災害公営住宅では、不適切な利用から、浄化槽にたびたびトラブルも起きた。

こうした一つ一つの問題を解決するのも、団地の役員。遠藤さんは「このままでは、役員のやり手がなくなってしまう」と危惧する。制度の説明一つにしても、市が積極的な立場を取らなければ、住民自治は成立しないと説く。

「それでも豊間団地はうまくいっている方。遠藤さんの手腕です」と、管理会の役員からは称賛の声が上がる。高齢者が多い環境を配慮し、団地の集会所で定期的に催しを開いている。震災で被災した岩手、宮城、福島の3県では、災害公営住宅に入居した後の孤独死が依然問題となっているが、ここでは未然に孤立を防ぐ努力をしている。

その他にも、集会所のホワイトボードは予定がぎっしり。近くのスーパーマーケットに向かう足として、買い物の送迎も継続している。「来年度はシルバーリハビリ体操を計画しています」と遠藤さん。本人は来年3月で、会長の職を退任する意向を持っているが、周りは続投を希望する。

写真は、タイリョウザクラが見ごろの豊間団地=11日(クリックで拡大)

■いわきFC ユニホームに秘めた9本の斜線

サッカー・いわきFCは今季、日本フットボールリーグ(JFL)にカテゴリーを上げた。アマチュア最高峰のリーグに挑み、Jリーグ参入にあと一歩と迫る中で、「Jリーグ百年構想クラブ」の認定に合わせ、ホームタウンを従来のいわき市から、双葉郡8町村を加えた9市町村に広げた。

運営元・いわきスポーツクラブの大倉智代表取締役は、ことあるごとに、東日本大震災をきっかけに立ち上がったクラブとして、復興から創生に寄与したいと語ってきた。その延長に東電福島第一原発事故から立ち上がる双葉郡があった。

もちろんクラブの理念「サッカーを通じて、いわき市を東北一の都市にする」は変わらない。スタジアムの問題に絡み、気をもむ市民もいるが、大倉氏は「いわき市から出ていくことはない」ときっぱり。見据える先は浜通りの将来だ。

クラブ関係者は、いわき市と双葉郡8町村を盛り上げる仕掛けを明かす。今季のユニホームには、胸に復興から成長を意味する斜線「Growin’s Slash」が入っているが、本数はホームタウンの数に合わせて9本となっている。

まさに、いわき市と双葉郡8町村の思いを抱きながら、今季の一戦一戦に向かっていく。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、JFLの開幕はずれ込んだが、試合が行われるのが、いまから待ち遠しい。

写真は、9本の斜線には、いわき市と双葉郡の思いが込められている(クリックで拡大)

■廃炉資料館 原発事故伝える意義

富岡町に原発事故の事実と、廃炉事業の現状を伝える施設として、「東京電力廃炉資料館」が立つ。平成30年11月のオープン以来、年間来館見込みの2万人を大きく上回り、2月末までに県内外から延べ5万8940人が訪れた。これからも多くの来館者が続く中で、原発事故の記憶を伝承する施設として、その運営のトップに当たる館長の鶴岡淳さん(52)に話を聞いた。

「私たちは当事者として、原発事故を風化させてはならない。反省と教訓を社会にお伝えしていく」。鶴岡さんに廃炉資料館の意義を問うと、決然とそうした答えが返ってきた。同時に廃炉作業の最新の進ちょくも発信することで、社会の不安の払しょくや復興につながるとも語った。

館内のうち、2階部分では、映像やグラフィックを活用しながら、原発事故に至った経緯やその後の経過を紹介しているが、「おごりと過信」との表現を強調している。鶴岡さんは「社員の誰もがそうだったように、私も原子力は安全ということに疑問は持たなかった」と振り返る。

1階部分は最新の廃炉状況を説明する。来館者からは「ここに来て初めて知った」との声が挙がるように、専門用語など丁寧な解説に努めているという。また原発で新たな動きがあれば、できる限り早く展示に反映させるとした。

原発事故から9年を迎える思いを聞くと、鶴岡さんは個人の話と断りながら、月日が経つのは早かったと話す。「私たちの会社が残っているのは、福島の復興を果たすため」。福島に赴任して、復興の現実を改めて強く認識したと明かす。

かつての安全神話から脱却し、30〜40年かかる廃炉の実現に向け、復興の一端を担う場として、今後も廃炉資料館の活用が望まれる。

写真は、原発事故から9年に合わせてインタビューに応じる鶴岡氏(クリックで拡大)

■いわき市の新型コロナ感染者 濃厚接触はなかったと発表

市は10日、いわき市の70歳代男性が新型コロナウイルスに感染した件について、疫学的調査の結果を明らかにし、濃厚接触者はいなかったと公表した。飯尾仁市保健福祉部長が同日夕方、市役所で記者会見して発表した。

男性は集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船していたが、2月13日に船内で受けた検査では陰性だった。同じく乗っていた妻は陽性と分かり、現在も県外で入院している。

国の指定機関で経過観察した後、男性は2月27日に高速バスで帰宅。3月2日に発症したとされ、6日に悪化傾向が見られたため、帰国者・接触者外来を受診した。7日にPCR検査の結果、新型コロナウイルスの陽性と判明した。10日現在、男性の熱は36・4度で、のどに違和感も無い。

市によると、高速バスは東京駅・午後1時発のいわき行きで、車内には男性のほか、運転手1人と乗客9人がいたが、うち乗客3人の連絡先は特定できていない。ただ乗車した際の男性は発症前の上、マスクを着用していたため、濃厚接触の定義からは外れるとしている。

市では連絡が取れていない乗客3人に関しても、健康に不安がある場合には、帰国者・接触者相談センター=電話(27)8596=まで連絡を求めている。

また男性は2月29日と3月4日の2回、近所の同じスーパーマーケットを訪れ、マスクを着用した上で15分程度の買い物をした。いずれも男性はマスクをしており、他者と共有するトングなどを触っていないため、こちらも濃厚接触ではないとしている。

さらに男性は、高速バスを降りた際に親族に送迎を頼んだほか、帰宅後に知人2人と頻繁に会っていたが、それぞれ短時間で、互いにマスクを着用するなど感染リスク低減を図っていた。

親族と知人2人の健康状態には問題は無いが、市では念のため、2週間にわたって体調の変化に留意するよう伝えた。