2.エース沖、自分が抑え勝利を

昨夏、白河の地で初戦敗退した悔しさをバネに、秋は快進撃を見せた磐城。その原動力の柱となったのは主戦・沖政宗(2年)だ。今ではマウンドでエースの風格すら漂うが、投手転向は高校から、というのに驚く。小学校時代は学童野球の小名浜少年野球教室に在籍。ともに楽天ジュニアに選ばれた主戦・小吹悠人(山梨学院・2 年)の女房役としてマスクをかぶった。

中学時代はいわきリトルシニアで、三塁、遊撃と主に内野手。「勉強と野球を両立したい」と県内屈指の進学校に進むと、「伝統ある磐城の背番号1を付けて、マウンドに立ちたい」と遅咲きながらも、エースへの階段を上がり始めた。

新チームでは公式戦9試合に登板。身長178センチの長身から投げ下ろす、最速142キロの真っすぐを軸に、往年の名投手の動画などを手本にし、2種類のスライダー、チェンジアップ、スプリットと多彩な変化球を操り、防御率0・90と抜群の安定感を誇る。

投の柱としてスタートを切った昨秋の支部大会では勝ち星を重ねるも、木村保監督は不満顔。勝利への気迫が感じられず、名前をもじり、「ボールを置きにいっている」と叱った。県での戦いが進むにつれ、ようやく開眼。指揮官が「ひと皮むけた」とたたえた一戦が残り1枚の東北切符をかけた東日大昌平との3位決定戦だ。

思わぬワンミスで福島成蹊との準決勝で敗戦。その翌日、決戦の地・白河に再び入るも、雨で仕切り直し。女房役の岩間涼星主将(同)と相手主砲への対策について練った。

一夜明け、迎えた大一番。第1、2打席と相手主砲は甘く入った変化球を見逃さず、外野に運ばれ、2連続で長打を浴びた。だが動じない。以降、三邪飛、二ゴロと打ち取った。最終九回、リードはわずか1点。

この回、先頭の相手主砲に対し、この試合134球目となるど真ん中の真っすぐで打ち取った。沖の指示通り、フェンスぎりぎりで待つ中堅・草野凌(同)がきっちりと捕球すると、勝利を確信。後続を打ち取ると天に向かって何度もほえた。

この一戦で指揮官の信頼を勝ち取り、東北での3戦すべて真っ新なマウンドに立った。準々決勝で力尽き、自力でのセンバツ出場を逃すも、21世紀枠で望みをつないだ。

今大会、小吹がいる山梨学院もセンバツに出場する。奇しくも、かつてのエースは遊撃手に転向。沖は「自分を含め、野球の技術は強豪私学には劣るが、どんな場面でも自分がゼロに抑えれば負けない」ときっぱり。甲子園のマウンドで、旧友に成長した姿を見せるつもりだ。

写真は、前チームの主戦・首藤浩輝のアドバイスを受けながら、変化球を磨く沖(手前)(クリックで拡大)