2019年12月24日(火)

■台風19号 市の検証委発足 死者9人の事実重く受け止め

市は24日、いわき市に甚大な被害をもたらし、死者9人を出した台風19号に関する検証委員会を立ち上げた。第1回の委員会が同日、市役所・災害対策本部会議室で開かれた。

検証委員会では尊い命が奪われた事実を重く受け止め、当時の災害対応が正しかったかを振り返った上で、課題や問題を抽出し、今後の防災対策に生かしていく。委員には大学教員や防災専門家、市民代表ら8人が委嘱された。

委員に委嘱されたのは、▽福迫昌之(東日本国際大副学長)▽鎌田真理子(医療創生大教授)▽杉安和也(東北大災害科学国際研究所助教)▽丹野淳(福島高専都市システム工学科助教)▽鹿野義明(福島地方気象台防災管理官)▽金成克哉(市行政嘱託員=区長=連絡協議会長)▽篠原清美(市民生児童委員協議会長)▽佐藤将文(下平窪自主防災会長)――の各氏。

第1回の委員会に先立ち、清水市長から委嘱状が手渡された。委員長には福迫氏、副委員長には杉安氏と金成氏が選任され、議事は冒頭を除いて非公開で実施された。

市によると、検証委員会では主に、発災直前から初動対応期(発災72時間まで)の情報収集・発信や、市民の避難行動を議題としていく。

検証委員会は1〜2カ月に1度の割合で開催。並行して来年3月ごろをめどに、被災者に対するアンケートを行い、どのような避難をしたかを調査する。中間報告は来年春、最終報告は来年夏の見通しで、これを基に、地域防災計画の改定に着手する。

[福迫氏「どれだけの想定だったのか」]

検証委員会に当たって、福迫氏は「いわき市は震災の被害を受けたが、違う種類の災害に対しては十分でないことが分かった。これを契機に、市全体としての指針が必要」と強調。台風19号に際して、一部の避難所が満杯だった状況から、「どれだけの想定だったのか」とも指摘する。

情報のあり方にも言及し、「情報とはただ伝えれば良いのではない。インターネットに載っていても、届かない人がいる以上、事前の段階から考えるべきだ」との意見を示した。

また鎌田氏からは、いわき市は比較的災害が少ない土地柄ゆえに、「(自分は大丈夫と思い込む)正常性バイアスにかかってしまう。具体的な避難行動計画が必要」との考えが出された。

佐藤氏は、夏井川が決壊し、広い範囲が浸水した平下平窪地区の区長も兼ねる立場から、「生活再建に向け、決意を新たにしている。委員会の内容を全区民に伝えていきたい」と話した。

■海洋・大気・併用の3案軸 原発処理水 有識者会議「政府が責任を」

東電福島第一原発の汚染水を浄化した処理水について検討する政府の有識者会議は23日、都内で会合を開き、環境への放出を前提とした報告書案を示した。放出時期や期間は「政府が責任をもって決定すべきだ」と指摘した。会合では、事務局が「海洋に放出」「大気に放出(水蒸気放出)」「併用」の3案を示した。

委員から異論は出なかったが、過去の風評被害例についての記載の拡充や、放出方法の詳しいデータを求める意見が出され、報告書は次回以降にまとめることになった。

処理水は、同原発で生じた汚染水などからトリチウム以外の放射性物質をほぼ除いた水で、貯蔵量は約110万dに上る。

海洋放出は、国の基準を下回るまで希釈して海に流す方法で、国内の原発で広く行われている。水蒸気放出は、高温で蒸発させて排気筒から上空に放出し、大気中で国の基準を下回るようにする。

[市漁協・江川組合長「時期尚早」]

「海洋放出」か「水蒸気放出」か、その併用か――。廃炉作業の進展が期待される一方、風評被害に苦しむ地元の農漁業者からは戸惑いの声が上がった。

漁業者側はこれまで処理水の海洋放出に反対し、原発敷地内での保管を求めてきた。市漁協(市漁業協同組合)の江川章組合長は「地元の意見をしっかりと聞いているとはいえず、海洋放出は時期尚早。漁業の後継者にも影響を及ぼす」と訴える。

原発事故後、県漁連(県漁業協同組合連合会)は平成24年6月から魚種や海域を限定した試験操業を行い、復活の道を模索してきた。

放射性セシウム濃度について、国の基準値(1`当たり100ベクレル以下)より厳しい自主規制値(同50ベクレル以下)を設けて出荷し、安全を確保。徐々に漁獲対象を増やし、現段階の出荷制限は1魚種のみとなった。

経済産業省の作業部会が平成28年4月、海洋放出が最も費用を抑えられるとの試算結果を公表すると、県漁連の野崎哲会長は「海洋放出に反対」と表明。昨年8月に県内で開催された公聴会では「漁業は壊滅的打撃を受ける」「風評被害を加速させる」と反対意見が続出した。

今年9月には当時の原田義昭環境相が「海へ放出して希釈するしか選択肢はない」と発言し、後任の小泉進次郎環境相が謝罪した。

水蒸気放出という案が示されたことで農業者側の懸念も広がっている。会津若松市でブランド米生産を手がける農業男性(71)は「県産米の価格は回復途上なのに、処理水を蒸発させたらまた風評被害が生じる。それでも放出するなら、政府は安全性を説明してほしい」と求めた。

県内では流通ルートに回る全ての農産物に放射性物質検査を実施し、特にコメは全量全袋検査で安全対策を徹底するなど、風評の払拭(ふっしょく)に努めてきた。今後、農林業者への政府の対応も焦点となってくる。(読売新聞社配信)

■市内公立小・中 2学期終業式 小玉小では被災乗り越え冬休み

いわき市の公立小・中学校は24日、2学期の終業式を迎えた。本年度は改元に伴い、例年より4〜5月の大型連休が長かったため、市教委が冬休みに1日授業日を設けるよう示したところ、市内すべての公立小・中が23日を授業日とし、24日を終業式とした。3学期の始業式は来年1月8日。

小川町西小川の小玉小(山部隆徳校長)でも、児童160人が2学期を終えた。台風19号によって、学校近くの夏井川が決壊する事態となり、校舎の被害は少ないものの、被災した児童3人がいまだ学区外から登校している。また恒例の収穫祭が中止されるなど、災害の爪痕が残っている。

終業式では、山部校長があいさつに立ち、「1年間お世話になった人へ感謝を伝える」といった事柄を伝えた。

式の席上、持久走記録会の新記録達成者、いわき児童造形展の入選者が表彰されたほか、杉岡姫南乃さん(1年)、神野春馬君(3年)、山崎綾香さん(5年)が、2学期の反省や3学期の目標を発表した。

クラスごとの学級活動では、子どもたちが担任から通知表「あゆみ」、宿題などを受け取り、冬休みの準備を進めた。

小川町高萩の自宅が被災し、現在は四倉町から通う碇川将聖君(6年)は終業式に当たって、「小川に戻って、普通に友達と学校へ通いたい」と心境を述べつつ、「冬休みはゆっくり家で過ごしたい」と語った。

写真は、通知表を受け取る子どもたち=24日(クリックで拡大)