2019年11月13日(水)

■台風19号 犠牲者に黙とう 年内にも検証委立ち上げへ

いわき市は13日、台風19号によって、夏井川などの市内河川が氾濫・決壊し、死者9人(8人が浸水による溺死、1人が救助中のヘリコプターから落下して死亡)を出してから、1カ月の節目を迎えた。

市は同日午前、亡くなった市民に対する黙とうを実施した。市役所の災害対策本部会議室では、市幹部らが哀悼の意をささげた後、清水市長が1カ月に当たってのメッセージを読み上げた。黙とうは市役所本庁舎・各支所に加え、平窪、赤井の現地対策事務所で行われた。

自治体によっては、台風19号の上陸を起点に、12日に1カ月の慰霊に臨んだが、市は10月13日未明に夏井川などが決壊し、人的被害が生じた点を踏まえ、13日に設定することを決めた。

清水市長は1カ月のメッセージで、台風19号の被害に触れながら、改めて犠牲者の冥福を祈るとともに、被災した市民にお見舞いを述べたほか、全国の自治体や自衛隊、関係団体、ボランティアによる支援に謝意を示した。

その上で、「災害対応は被災者の生活再建に向けた支援や、インフラ等の本格復旧に取り組む『復旧・復興期』へと移行している」と強調。災害に強いまちづくりを進める決意を込めた。

メッセージの読み上げに続いて、清水市長は報道陣の取材に応じ、市としての台風19号に関する検証委員会を、早ければ年内にも立ち上げる方針を明らかにした。

浸水によって亡くなった8人のうち、7人が65歳以上であり、清水市長も「(この点について)大変心を痛めている。検証を進めていきたい」と説明。避難そのもののあり方や、携帯電話によるエリアメールを受信しにくい世代に対し、どう危険を伝えていくかが問われる。

生業(なりわい)再建に向け、市独自の支援制度を始める意向も表明した。市によると、小規模事業者を対象にした取り組みで、週内にも内容が発表される見込み。

被災した小規模事業者の事業継続に対しては、いわき商工会議所の小野栄重会頭が12日、清水市長に制度創設の緊急要望をしていた。

氾濫・決壊した河川の対応にも言及し、多くが県の管理のため、いわき市選挙区で新たに選出された10人の県議と連携し、県に働きかけを強めていくとした。

台風19号や続く大雨の被害に伴い、浸水想定区域を図示した「ハザードマップ」にも注目が集まっている。清水市長は自治会単位で、周知徹底を図る考えも語り、引き続き市民の安全・安心を守っていくと誓った。

<清水市長メッセージ全文 こちら

写真は、黙とうをささげる清水市長ら=13日午前(クリックで拡大)

■台風19号 市内外から支援 義援金は約4千万円

台風19号によって、いわき市は甚大な被害を受けたが、市内外から多くの善意が寄せられている。

義援金は7日までに、計3949万6690円を受け入れている。うち復旧・復興義援金には119件・1751万1480円、生活支援義援金には228件・2198万5210円となっている。

市では義援金の扱いを未定としているが、東日本大震災の際は、半壊以上の世帯に対し、一律5万円を配分している。

ふるさと納税を使った寄付も続いている。12日午後6時時点で、3カ所の業者(楽天・ふるさとチョイス・さとふる)を通じ、1409件・1727万1873円(一部未確定分含む)に上る。

市創生推進課によると、一口数千円から、中には50万円の寄付もあったという。

■発災から1カ月経過も いまだ341人が避難所に

いわき市では台風19号の被害から1カ月を迎えても、いまだ6カ所の避難所に、160世帯・341人(13日午前6時現在)が身を寄せる。

市によると、台風19号と続く大雨で避難所を設置しており、最大で57カ所に、3018世帯・6968人(10月13日午前1時時点)が避難していた。

■平窪中心に 郵便物など遅れ続く

台風19号によって、郵便物やゆうパックなどの配達にも、いまだ影響が続いている。日本郵便によると、12日現在、主に平・平窪地区を中心に、いわき市の一部でも配達に遅れが生じている。

また郵便局の休止も継続しており、いわき市では同日現在、平窪、赤井、豊田簡易の3郵便局が営業を取りやめている。

■水害取材通じて「情報発信のあり方問う」

台風19号によって、夏井川などが決壊してから、13日で1カ月が経過した。市は懸命に復旧作業に取り組んでおり、くしくも台風19号の被災前に、災害対策本部の体制を市役所本庁舎3階に一元化したことで、関係部署の連携は取りやすくなっていると感じる。

一方で情報のあり方には疑問が残る。例えば死者・行方不明者に関して。10月13日から他の自治体では、次々と犠牲になった人が報道された。市は同15日昼前に、県警からの情報を基に、ようやく死者7人・行方不明者1人と明らかにした。

捜査関係者に対する取材で、本紙は同14日夕方の時点で、家族らに順次、遺体が引き渡されたことを把握していた。だが同日夜の市の記者会見では、死者・行方不明者の発表はなかった。

消防が浸水した家屋に駆け付け、社会死(蘇生が不可能な状態。搬送を必要としない)と判断した事例もあった。ならばこの段階で、「台風19号が原因で死亡した可能性がある」と言っても良かったのではないか。

人的被害が見えないことで、いわき市の初期の被害実態がわい小化する恐れがあった。

また県の管轄を理由に、後手に回った部分も見受けられた。

同12日夜には、県が管理する高柴ダム(田人町旅人)で、水位の上昇による緊急放流が行われた。当時は市役所に詰めていたが、避難指示は市が出すため、下流の市民に影響がないか聞くも、情報が錯綜(さくそう)していて要領を得ない。

対応も二転三転し、緊急放流の事前連絡を受けたかも、判然としない具合だった。

県から連絡員が派遣されているも、その職員は本来は県税を担当しているという。いくら県が担っている部分とはいえ、市民の命を守る上で心もとない。

河川の決壊もしかり。記者会見で、夏井川の仮復旧時期を問うても、担当部長が「分からない」「きょう終わったと思う・・・」と答え、報道各社をいら立たせた。

確かに夏井川は県知事が管理する水系だが、市民生活に直結する事柄として、市の公表資料に掲載している以上、主体的に問い合わせるべきだ。

いわき市が大きな水害に見舞われるのは、およそ30年ぶり。だが地球温暖化の影響か、今まで想定しない大雨に、再び襲われる可能性は高い。

情報を積極的に発信・取得し、広く伝えていく姿勢が求められる。年内にも設置される検証委員会で、こうした点も議題としてほしい。